先日、ふと立ち寄った古本屋で、一冊の古びた文庫本を手に取りました。
埃っぽい棚の隅に並ぶ本たちは、どれも誰かの時間を通り抜けてきた“旅人”のよう。
ページをめくるたびに、懐かしい紙の匂いとともに、心がじんわり温かくなりました。
本というのは不思議なもので、求めていない時ほど、必要な言葉に出会わせてくれるものです。
偶然の出会いがくれた小さな喜び
仕事帰り、久しぶりに雨が上がった夕方。ふと目に入った「古本 買取します」の看板。
少し時間もあったので、懐かしさに引かれて扉を開けてみました。
店内には、昭和の香りが漂うレコードや雑誌、手書きの値札がついた文庫本が所狭しと並んでいます。
最近はネットや電子書籍ばかりで、こういう空間に入るのは本当に久しぶり。
ページをめくる指先の感触に、「ああ、やっぱり紙の本っていいな」と思わずつぶやいてしまいました。
何気なく手に取ったのは、昔人気だった作家のエッセイ集。
装丁は少し色あせていたけれど、どこか懐かしい温もりを感じました。
開いてみると、前の持ち主が引いた線や書き込みがところどころに残っていて、
まるでその人の人生の跡を辿っているような気分に。
言葉が心にしみた瞬間
ページをめくるうちに、ある一文が目に留まりました。
「焦らず、比べず、自分のペースで歩けばいい。」
その言葉を読んだ瞬間、胸の奥がふっと軽くなりました。
最近、仕事の変化や老後の不安を考えることが増えていたせいか、
知らず知らずのうちに「まだ頑張らなきゃ」と自分を追い込んでいたのかもしれません。
けれどその一文に出会って、「今の自分のままでいいんだ」と素直に思えました。
本の持ち主も、きっと同じような気持ちで線を引いたのかもしれません。
時代も場所も違うけれど、誰かと心がつながったような、そんな不思議な温もりを感じました。
本がくれる“心の栄養”
昔の自分なら、こんな小さなことで心を動かされることはなかったかもしれません。
若い頃は結果や効率ばかりを求めて、ゆっくり立ち止まる時間がもったいなく思えていました。
でも今は、「心の栄養をとる時間」こそ大事なんだと感じます。
古本屋の静かな空気、本の紙の手触り、そして偶然出会う言葉。
どれもお金では買えない贅沢です。
日々の忙しさに流されがちな中で、こうした“余白の時間”が心を整えてくれる気がします。
たとえば散歩の途中に寄る喫茶店、道端の花を眺めるひととき、
そして古本屋で手にした一冊。
どれも「今を味わう」ための小さな習慣なのかもしれません。
次に古本屋を訪れる楽しみ
その日以来、時々近所の古本屋をのぞくようになりました。
「次はどんな本と出会えるだろう」と考えると、それだけで少しワクワクします。
家に持ち帰った本は、カフェで読んだり、寝る前に少しずつページを開いたり。
一冊一冊に物語があり、出会うたびに新しい発見があります。
それに、古本屋の店主さんとちょっとした会話を交わすのも楽しいものです。
「この作家、若い頃好きだったなあ」なんて話をすると、
「うちの奥さんもその本、大事にしてるんですよ」と笑顔で返ってくる。
そんな人とのやりとりもまた、心の栄養の一つなんだと思います。
これからの楽しみ方
これからは、旅先でも古本屋を探してみようと思っています。
観光地の名所巡りもいいけれど、地元の人が通うような小さな古本屋に入ると、
その土地の空気や人柄に触れられる気がします。
ページをめくりながら「この本を読んだ人はどんな人生を送ってきたのだろう」と想像する時間。
それが、最近の私にとって癒しです。
おわりに 〜心が喜ぶ時間を大切に〜
古本屋で見つけた一冊の本は、私に“心の栄養”を思い出させてくれました。
年を重ねると、目に見えないものの価値がよく分かるようになります。
たとえ古びた一冊でも、そこに詰まった言葉や思いは、今を生きる私たちの心をやさしく包んでくれます。
これからも、自分のペースで、心が喜ぶ時間を大切にしていきたいと思います。
もしかしたら次の一冊が、また新しい気づきをくれるかもしれません。

